ある時代のある街に、何人にも負けない、剣となる人間を産む不思議な女性がいました。

彼女は普通の男性と、深く愛し合い、ついに子供を身ごもりました。

「この子は産まれても、いずれは剣になる子。」

彼女は、過酷な運命を辿るその子を産むべきか、とても悩みました。

「普通の子供として育てれば、普通の人間として、年老いて死んでゆくさ。その後の姿が剣になるか、灰になるかの違いだよ。僕たちが守っていけばいい。」

旦那さんの言葉を受け、彼女は産むことを決意しました。


ある雨の日、ついに子供は産声を上げます。

産まれてきたのは、二人の男の子。
そう、双子でした。 親となった二人はすこし戸惑います。

双子であるのなら、どちらか先に、人として命を絶った者が剣となるからです。

彼女・・お母さんには兄弟がいません。
剣となる人間を産む一族の運命に危険は尽きないため、代々、一人しか子供を産んでいなかったのです。
それが、今回は二人同時に産まれてしまった。
片方は普通の人間として、片方は剣として、生涯を終えなければなりません。

一人の子供ならば、生まれもった運命を受け入れ、理解し、強く生きることは比較的容易かもしれません。

しかし二人の場合、「どちらか一方が」という意識を持って生きていかなければならないため、心の負担が大きなものになります。
他人からの負担も、大きくなるでしょう。

もちろん、この世界が平和で、どちらが剣となるかを誰にも決めることができないのならよいのですが、
当然、そのことを知る、悪しき人間が彼らを奪いに来る日もやってくるかもしれません。


剣は、幼すぎても、老いすぎても、その力を存分に発揮することは出来ません。

「ちょうど成人となる頃、きっとこの子達は危険に晒されるだろう。」

そう思った彼女は、彼らに己を、そして互いを守る力を持たせようと決意します。

琥珀色の瞳をした兄を「ミール」
暖かな藍色の瞳をした弟を「ヴァイナー」と名づけ、

夫婦は彼らと、たくさん触れあい、たくさんの言葉を与え、愛情深く育てました。


2人がある程度成長した頃、一部の街の人々は、ある話題で陰ながら盛り上がっていました。

「どちらが剣になるのだろう」

「兄のほうは、体は弱いが見栄えが良いから兄だろう。」

「剣は見栄えではない、優秀な弟に決まっている」

「あの弟は、成長するにつれ更に優れた剣士になるだろう。だから兄が剣となり、弟を支えるほうがいい」

「弟は剣術しか能が無いようだから、剣として生きてもいいんじゃないか。病弱な兄に更に酷なことをさせるのはあまりにむごい。」

意見は様々でしたが、大半の人々は、ヴァイナーのほうに目を付けていたようです。

ミールは何だかんだで街の人々に愛されていました。

毎日街に繰り出しては何かやらかしていたため、それが無くなることに寂しさを感じる人が多かったようです。

ヴァイナーは大人に混じって特別な教育を受けていたため、街の人ともこれといって関わりがなく、そのせいか街の人々もあまり情が湧かないようです。

ヴァイナーも、自分の運命をぼんやりと感じていました。

剣を握っている時は、嫌なことも全て忘れられます。
だからヴァイナーは、毎日練習に明け暮れていました。